第82号
アダムとエバによる人類の堕罪に対する救済の歴史はアブラハムからはじまりました。神はアブラハムに現われ、彼に「土地」と「子孫」が与えられ、世界の民の「祝福」の源になると約束されました。アブラハムとサラには子がありませんでしたので、サラは七十歳を過ぎると自分の奴隷であるエジプトの女ハガルをアブラハムに与えイシマエルを得ました。奴隷の子は主人の子でもあったからです。しかし、神の約束の成就は奴隷の女によってではなく、あくまでも自由な女であるサラによってでした。アブラハムが百歳の時、九十歳のサラの体に命が宿りました。それがイサクでした。
イサクが成長すると、神はアブラハムにイサクを焼き尽くす献げ物とするよう命じました。その声を聞くとアブラハムは旅立ち、三日後、モリアの地で祭壇を築きイサクを捧げようとしました。その時、神は天から呼びかけ、イサクをアブラハムの手に戻されました。アブラハムはイサクに代わって雄羊を献げました。それは死からの復活でした(ヘブル一一:一九)。モリアの地は、ユダヤ人たちの伝承によればソロモンが神殿を建てた場所です(歴代三:一)。アブラハムから二千年後、そこで神の子羊である主イエスが十字架につけられました。ヨシュアは神がアブラハムに約束した「土地」と「子孫」が彼らに与えられたのを知り、民と契約を結びました(ヨシュア記二四章)。神を信じ従う決心を民としたのです。ここにヤハウェを信じ、救いの歴史を共有する十二の部族共同体が生まれました。エジプトで奴隷であった民が神により自由の民となったことは、死から命に移されたことであり、新しい時代のはじまりでした。
このような神との契約にもかかわらず、人々はすぐに土着の民の影響を受け、バアルやアシュタロトなどのカナンの神々を信じるようになりました。これらの神は農耕の神で豊穣の神でした。また、彼らは神による直接の支配ではなく、他の民と同じように王制を求めるようになりました。神に従ったダビデ王のとき国は発展しましたが、ソロモン王の後、国は二つに分裂しました。王たちと民による罪の結果、北王国イスラエルはアッシリアに、南王国ユダはバビロニアによって滅ぼされました。約束の地を追われ、捕囚となったユダの民はペルシャ王キュロスによって帰還が赦されましたが、世界に散ったイスラエルの民はエルサレム神殿を中心とする祭儀を守る神の民ではなく、律法を守る神の民として生きるようになりました。